2019年01月14日

レイヴン

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 近しい者の身が非常事に晒された時に
予兆・予感めいた事を感じた,という例は世に珍しくない。
 ここ十年ほどの間にまず母・次に父・そして意表を突かれた形で妹,と
次々に失ってしまったが,その際「明らかな異変」の類は記憶に無い。
 
 予兆とは到底言えないものの
母が死を迎えた日はちょうど息子の参観日で
普段あまりおきない頭痛があり「なんか体調良くない,参ったな・・・」と
予定通りに出かけるか否かを逡巡していたことは覚えている。


 あの妹の際の夜は,
義弟から「家に帰ってこない」と連絡を受けた直後はまず,
「この人は言わないが,きっと夫婦喧嘩でもしたんだろうな」と思った。
 詳細な聞き取り会話の後に受話器を置いた後になってから
言いようのない強い不安が静かに立ち上ってきて黙っておられず,
義弟に電話をかけ直し,警察への連絡を頼んだ。
(結局その依頼を義弟はこの夜,拒んだのだが)
 でもこれは予感と言うより,近しい身内ゆえの当然の心情。


 誰かが死に瀕した際の予兆ではなく
死の後の「最後の挨拶」だったか?と思える経験は,昔に一度ある。


 今のような時期,寒さの厳しい真冬だった。
 当時同期だった学生が,卒業を目前にして急に亡くなった。

 いったい何が起こったのかが正確に分からないまま葬儀も終わり,
かなりの日にちが経過した後の早朝,夜明け間際のことだった。
 
 夢を見ていた。
 真っ黒い空間を背景に,見事な大輪の花が数本,生えている。
 数秒の後,それらが全て消えた。入れ替わりに,
急死した同期生の顔が,ふっと空間に浮かんでいた。
 
「顔」だけが。真っ黒い空間に,ただ,顔だけ。
 生前よく見た彼女の,人懐こい満面の笑顔が,ぽっかり浮かんでいた。

 次の瞬間,がばっと掛け布団をめくる形で上半身を起こして
泣きながら「〇〇!!」と彼女の名を叫んでいた。
 気付くと,びっくりする位の大量の涙があふれ,流れ落ちていた。

 子どもの頃から様々な夢は見ても,それで叫んだ事など一度も無かった。

 何より,彼女と私はそこまで親密な仲ではなかった。
 仲間の死を悼む気持ちは当然あったものの
夢にまで見て号泣する程の強烈さではなかった,というのが事実。
 なのに。我ながら不思議に思えた。
 でも少し時間を経て落ち着いてから,思った。挨拶に訪れてくれたのだと。
そういう事をしてもおかしくない,とても真面目な学生だった。
 彼女の命日も,もうすぐだ。
  
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ラベル: 時間
posted by yukimiko at 22:01| 日記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2019年01月13日

ファイアレッド

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 どんど焼きに行った日の夜だからなのか,また妙な夢を見た。
 
 さほど頻繁にではないが,
夢の中で出くわす出来事に対して,根拠も無いのに勢いのある直球のように
「これは,〇〇だ」という類の確信が生じることがある。
 昨夜もそんな感覚があった。
 
 おそらくは,既に夜明けも近いような時間帯。
 左半身を下にする状態で横向きに眠っていたところ,
左隣で眠る夫とは反対側になっている,右の腰のあたりを
三回,トントントン!と軽くたたかれる感覚で目が覚めた。
 
 脈絡無しにいきなり「ああ,△△ちゃん(妹の名)だ!」という思いがわいた。
直前まで妹が出てくる夢を見ていた訳でもなかったのだが。

 先日,命日の参拝帰りに家に立ち寄ってくれた甥っ子から
私たち姉妹の実家畳みに関して,生前の妹が発したというある言葉を聞いた。
 こちらの労力や悲痛な思いは,もしや全くの徒労?という疑念で愕然となり,
無駄を覚悟でつい,やるせなさを夫に吐露したばかりだった。

 日頃,生々しい感情が関わるデリケートな問題には極めて鈍感な夫だが
今回の話に対しては,さすがに宥めにかかる言葉が出てきた。

 それを聞きながら,ふと既視感を覚えた。
 そしてさほどの時間を必要とせずに,
「ああ,そうか。これはもしかしたらあの,妹と姑さんの
関係悪化の切っ掛けとなった言葉の行き違いに,似ているのかも」と思った。
 まだまだ「子ども」の甥の表現が舌足らずであることは,否定できないし。


 精密な言葉を慎重に組み立てた会話など,常に出来る訳ではない。むしろ,
日常はその逆に近い例の方が圧倒的だ。
 結果,本来なら必要無いところで無駄にストレスが積み重なってゆくのかも。
 何とも悲しい。

 こんな不毛な齟齬を出来るだけ避けるためにも,
言葉は慎重に,的確に選んでいきたいものだ・・・とは思うけれど。

 
 
 どんど焼きの煙と熱は病を遠ざけ魔を払う,と言うのだから
あの「トントントン!」は,少なくとも害をなすものではないだろう。

  
ラベル:時間 言葉
posted by yukimiko at 20:52| 日記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2019年01月11日

コーヒー

 
 コーヒーを飲んでいた。

 家から随分遠く離れた場所まで迷走のように出向いた昼日中の妹が
「終わり」のあの日,証明できるものとしては最後に口にした物。

 その後の時間帯に飲食した形跡は何も残っていなかった。
それ以降はもう何も食べないまま
刺すような寒さの中,数時間を過ごしていたのか。

 命をつなぐ為の「食べ物」など,既に眼中には無かったか。

 

 自分に何ら責任など無い,宿命的に負わされた環境。
 逆に,
己の言動が引き寄せる結果となった,悔やみを生む事実。
 これらが入り組み,相互に影響しあい,苛まれていった心。
緩慢な毒針が静かに深く突き刺さっていくように。
 


 軽く扱う対象でないことは間違いない。
 けれど薬に「寄りかかるだけ」というのも諸刃の剣と思われる。
少しのかけ違いで死に直結しうるのが,静かに蔓延しつつある「うつ」の現実。


 誇張で無しに毎日考え続けている。手立ては無かったのか,と。
的確な答えが見い出せたとしても妹が戻ってくれるわけでもないが。
 それでも,それが私に課された事だと思える。 
 
 
 コーヒーの深い焦げ茶の色は,緑やオレンジ系と共に
私にとって「妹の色」だ。 

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ラベル: 時間
posted by yukimiko at 23:36| 日記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2019年01月09日

白緑(びゃくろく)

 望み通りと言うにはほど遠かったと思える妹の短い生涯だが
静かに眠る場所に関しては,ささやかな願いが叶ったかもしれない。

 義弟の家が檀家となっているお寺は
一見それとは分からない造作で,壁の色は特徴ある緑色の系統だ。
 いかにもお寺です,という独特のあの感じが,全くと言えるほど無い。
 最初に見た時,何事にも平凡さを好まなかった妹には合っている気がした。
しかも,好みだった緑系!
 偶然とはいえ,これなら僅かながらも慰めになるかも・・・と思った。

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 お参り帰りの義弟と甥っ子が先程立ち寄っていった。
 他人相手には決して出来ない,妹の死の直前の頃の様子や
三年たった今だからこそ,冷静に思い返せば色々と思い当たる,
「あの時」に至るまでに見え隠れした大小様々な違和感などの話を
本当に久々にすることが出来た。
 二人にも明言したが,
そういう言葉をあえて交わすこと自体が妹への供養の一つにも思える。
 
 それでも
甥は随分成長したとは言え,やはりまだまだ「子ども」なので
少なくとも私の方では
「ここまでは許容範囲,でもこの先は駄目」と,境界線を設けながら。

 いつか,このボーダーラインを全て取り払える日は来るのか?
そんな会話が出来てこそ妹の魂も救われるのでは?などというのは,思い込みか。

 私にとっては血を分けた妹だからそう感じるのか。
向こうの「残された家庭」にとっては,また異なるのだろうか。

ラベル: 偶然 言葉 家庭
posted by yukimiko at 17:31| 日記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2019年01月07日

ポピーレッド

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 明日が命日だが,昨日のうちに妹が眠るお寺の納骨堂に行ってきた。
 
 義弟は明日の午後にお参りするとのことだった。
平日なのだから,休みをとって地元に戻ってくるという事。
 
 妹の存命中に,このような心遣いの千分の一でもかけてくれていたなら
・・・と,少し空しく思う。
 でも,完全に失ってから初めて心の底から相手を想う,という
悲しい凡人の典型だ。義弟も,この私自身も。


 赤い上掛けに守られた遺骨。
 傍には,私とお揃いにした淡い緑色のサンキャッチャーと
妹が大ファンだった「水曜どうでしょう」の御守りを,目立たぬよう置いてある。
 子どもの頃に溺愛したペットに似た小鳥の置物も?と思ったが,
両親の遺骨を安置した自由度の高い所とは異なり,お寺に付随する納骨堂なので
さすがにそれは顰蹙ものか?と,控えることにした。


 2016年1月7日。
 三年前のこの日付が,私にとっては最後の「ありふれた日」となった。
 妹はこの日,どんなことを頭に巡らせていたのか。
 くる年も,くる年も,この問いを永遠に繰り返し続ける人生だろう。

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ラベル:永遠
posted by yukimiko at 23:57| 日記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2019年01月05日

萱草色(かんぞういろ)

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 夫の実家への挨拶から帰る夜,
街中のイルミネーションの淡い柑橘系の色味を見た時に
妹の色だなと思った・・・という内容を,先程,
妹追悼の為に作った別ブログ「ゆきのやしろ」側の方にあげていた。
 アップされた画面を見ても最初は間違ったとは気づかず,
数秒ほど経過してから,事の次第を理解した。

 私,新年早々,かなり疲れているかな?


 それぞれの色が象徴する意味から心を紐解き癒すカラーセラピーで
「家族」の概念をもつという,オレンジ系統の色。
 既に生まれ育った家族が皆「向こう側」に去った後の身には
あまり親和性の無い色と言えるのかもしれないが。


 この週末が過ぎれば,また日常が戻ってくる。
大人として,現実社会の中,それなりの位置で
与えらえた(または選び抜いた)己の役割を果たし,時間を過ごす。

 
 

 今年,あの神社に行けるのはいつ頃になるだろう?
 真冬のさなか,妹の最期の場となった雪の中の小さな神社。
 きっと今も,毎朝の参拝を日課としている方の手で
細部まで心が行き届いた丁寧な除雪が施されていることだろう。
 
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posted by yukimiko at 19:59| 日記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2018年12月30日

瑠璃色

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 夫と共に帰省中の息子が外出した後,
窓からの景色がほの暗く青みがかった夕暮れ模様になってから
保留したままだった神棚の設置場所を,ようやく決めた。
 
 旧宅では仕事用部屋の天井近くに設けてあったが
この住まいではどうすれば問題無いのか,考えあぐね逃避していた。

 仏壇の位置との兼ね合いや方角などから絞っていくと
問題なさそうな一角が自ずと絞り込まれた。
 最後に「目線よりも上になるように」との条件に沿えるよう,
棚などを組み合わせた。
 
 その中には,妹の家から来たパソコンラックの棚板も含まれる。
  
 死後のことではなく
問題なく元気だった,ずっと若い頃の妹から譲り受けた物だ。
 妹宅のパソコンを買い替えた為に,
当時話題だった「屋敷もの」のホラー系ゲームソフトと共に
不要になったデスクトップ型とラックを,妹夫婦が運んできてくれた。
 
 二階の部屋の片隅で,
義弟が要領よく組み立て,慣れた手つきで設置していた様子を覚えている。
「さすが,理系男子の本領発揮だなあ!」と感心した。
 傍らにいた妹も,まんざらでもない表情で見ていたように思う。


 平和だったな。
 

 息子が帰省すると決まっていた昨日の夕暮れ時。
 年末絡みの買い出しの為に夫と車で移動中,歳末の街中を眺めながら
新年の実家挨拶や,妹家族の訪問日などの調整に気を配った頃の記憶が
なんだか既に前世のように遠く思えていた。

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posted by yukimiko at 23:04| 日記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2018年12月26日

シャルトルーズイエロー

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 子どもが巣立った後の静かなクリスマスが終わった。
 ホールケーキとしては見たことが無かったピスタチオグリーンのケーキ,
淡い黄色味が涼やかなパッションフルーツの果実酒。
 趣を変えてみようと,今年は試しに定番から離れた品にしてみた。

 こんな日常のささやかな事で,自分の神経を
聞き分けの悪い子どものようにあやしながら過ごす。
 それを繰り返して,あの日からもうすぐ三年が経つ。


 それほどの時間が経過したという実感は無い。
妹の死を知らされた真冬のあの夜が,たったひと月ほど前の事のように思える。

 
 刺すような冷気の中を夕暮れ時まで
ひとりで長い道のりを歩いていた妹の最期の日。あの一月がまた来る。



 年末までの残り数日で,
果たしてこの住まいから転居の痕跡を完璧に払拭出来るのか。
 難しいかな。
 でも,
もう私生活の中では「こうしなければ駄目」という考え方は,捨てたわけだし。
 べつに,いいのかな・・・
 己に鞭打ってまで「きちんと」することは,必要ないかな。
 
 自分を,甘やかす。そういう過ごし方を選んだって,もう構わないかも。

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posted by yukimiko at 12:47| 日記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする